なぜ歯の化石がよく見つかるの?
博物館や化石ショップに行くと、歯の化石がたくさん並んでいます。サメの歯・モササウルスの歯・肉食恐竜の歯。骨の化石と比べると、歯の化石の方が圧倒的に多い気がしませんか?これには明確な理由があります。
理由① 歯は骨より硬い
骨と歯の成分は似ていますが、硬さが違います。
歯の表面を覆う部分(エナメル質)は、体の中で最も硬い部分で、骨とは比べ物にならない硬さがあります。一方で骨の内部は小さな穴がたくさんある構造をしていて、歯より崩れやすいのです。
化石として残るためには、埋まったあとに壊されず、長い時間をかけて鉱物に置き換わるなどの過程を経る必要があります。硬くて密度の高い歯は、骨よりも形を保ちやすいため、化石として残りやすいのです。

理由② モササウルスの歯は何度も生え替える
もうひとつの重要な理由が、モササウルスは歯を何度も生え替える生き物だったことです。
人間とはまったく違う歯のしくみ
人間の歯は、乳歯から永久歯へと一度だけ生え替わる「二生歯性(にせいしせい)」というしくみです。永久歯を失うと、もう自然には生えてきません。
これに対して、サメ・ワニ・トカゲ・ヘビなど多くの爬虫類や魚類は、「多生歯性」と呼ばれるしくみを持っています。歯が一本抜けたり折れたりしても、その場所に新しい歯が次々と生えてくるのです。モササウルスもこの多生歯性の生き物でした。
顎の中で次の歯が育っている
多生歯性の動物の顎の中を見ると、今使っている歯のすぐ内側や下に、次に生えてくる予定の「交換歯」がすでに準備されています。使っている歯が折れたりすり減ったりすると、この交換歯が少しずつ押し出されるように伸びてきて、古い歯と入れ替わります。
なぜ歯を何度も交換する必要があったの?
モササウルスは、魚やアンモナイト、頭足類、海生爬虫類など、さまざまな動物を捕食していました。種によっては硬い殻を持つ獲物をかみ砕いていたと考えられています。獲物との格闘の中で、歯が欠けたり折れたりするのは避けられません。
もし人間のように歯を交換できなかったら、歯を失うたびに獲物を捕まえる力が弱まってしまいます。常に予備の歯を用意しておくしくみは、海の頂点に立つ捕食者として狩りを続けるために、進化がたどり着いた工夫だったといえます。
歯列の中の各歯は、こうして定期的に新しい歯と入れ替わります。抜け落ちた古い歯は海底に積み重なっていきます。一頭のモササウルスは一生の間に何度も歯を生え替えるため、失った歯の総数は数百本以上、多いものでは千本近くになった可能性もあります。
理由③ 個体数 × 歯の数 × 時間 = 膨大な量
モササウルスは白亜紀後期(約9800万〜6600万年前)の約3000万年間にわたって、世界中の海に生息していました。
この期間に生きたモササウルスの頭数 × 1頭あたりの一生に落とす歯の数 = 海底に積み重なった歯の化石の総数は、天文学的な数になります。1頭の骨の数よりも、一生の間に生え替わって失われる歯の数の方がはるかに多くなります。単純な数の差が「見つかりやすさ」の差になっています。
1本の歯から分かること
1本の歯でも、古代生物の謎を解き明かすための多くの情報を持っています。
歯の形から食性を推定
円錐形の鋭い歯は「刺して捕らえる肉食タイプ」、平らな歯は「食べ物をすりつぶすタイプ」など、歯の形から主食が推定できます。
大きさから体長を推定
歯の大きさと体の大きさにはある程度の関係があります。ほかの化石と比較することで、おおよその体長を推定する手がかりになります。
磨耗パターンから行動を推定
歯の磨耗の仕方から、どのように噛んでいたか、何をよく食べていたかが推定できます。
歯の表面の状態から生態を推定
歯の表面の細かな傷やエナメル質の特徴などを調べることで、どのようなものを食べていたのかを推定できる場合があります。

歯は「種の名刺」
化石の研究では、「歯の形」が種を特定する重要な基準になります。同じ地層から骨が見つかっても、歯が見つかっても、多くの動物では、歯の形は種ごとの特徴が現れやすく、種を推定する重要な手がかりになります。 歯の化石を目にすることがあったら形や傷などをよく観察してみてくださいね。